第6章 ボランティア
1 ボランティア活動の意義
(1)ボランティアをめぐる近年の動向
2001年(平成13年)は国際ボランティア年であった。周知のとおり,この「ボランティア国際年」は,日本政府の提唱のもと,国連総会で決まったものである。その背景には,極めて大きな犠牲をもたらしたの阪神・淡路大震災(1995年)での多数のボランティアの活躍があったからである。
また,ボランティア国際年と同じ年に,前年(2000年)の教育改革国民会議報告の提言の一つとして,奉仕活動の推進が挙げられたことを踏まえ,学校内外を通じた体験活動の促進を内容とする学校教育法および社会教育法の改正が行われるとともに,中央教育審議会に「青少年の奉仕活動・体験活動の推進方策等について」が諮問され,翌2002年(平成14年)に最終答申が取りまとめられた。
2003年(平成15年)には,ボランティアスタッフが,その運営のかなりの部分を支えているといわれている「特定非営利活動法人(NPO法人)」が1万団体を超えた。1998年(平成10年)の「特定非営利活動促進法(NPO法)」の施行から,わずか5年たらずのことである。
(2)青少年にとってのボランティア活動の意義
平成14年7月の中央教育審議会答申「青少年の奉仕活動・体験活動の推進方策等について」は,ボランティア活動体験をはじめ様々な体験活動の青少年にとっての意義について「他人に共感すること,自分が大切な存在であること,社会の一員であることを実感し,思いやりの心や規範意識をはぐくむことができる。また,広く物事への関心を高め,問題を発見したり,困難に挑戦し解決したり,人との信頼関係を築いて共に物事を進めていく喜びや充実感を体得し,指導力やコミュニケーション能力をはぐくむとともに,学ぶ意欲や思考力,判断力などを総合的に高めること,生きて働く学力を向上させることができる」こととしている。
ボランティア活動の意義については,様々な意見はあるものの,ボランティア活動の準備学習としてのボランティア活動体験等のボランティア学習には,青少年が自分の可能性に気づき,社会の仕組や課題を知るというような,人格的成長や社会的成長を促す効果があることは広く知られている。
また,阪神・淡路大震災でボランティア活動が注目された大きな理由の一つには,人々の善意が集まったということにとどまらず,自発的な取組みは時に行政を超える公共的機能を持つことが明らかにされた点にある。中教審答申では,この公共的機能を,従来の「官」と「民」という2分法では捉えきれない新たな「公共」的活動と表現し,豊かな市民社会を支えるための原動力となっている,としている。
中教審答申は,ボランティア活動体験等の体験活動の意義について,新たな「公共」という観点から,「幼少期より積み重ねた様々な体験が心に残り,自立的な活動を行う原動力となることも期待され,このような体験を通じて市民性,社会性を獲得し,新しい「公共」を支える「良き市民」に成長することにつながるものである」としている。(藤原 一成)
2 青少年教育施設におけるボランティア活動
(1)青少年のボランティア活動の現状
平成13年に「子どもの体験活動研究会」が実施した,「地域の教育力の充実に向けた実態・意識調査」によると,「ボランティア活動への参加がない」と回答した青少年は,小学校3年生73%,小学校5年生65%,中学校2年生78%,高校2年生81%であった。
また,上記調査で毎週土曜日・日曜日が連休になった時に「地域のボランティア活動に参加すること」への関心については,中学生,高校生とも「関心がない」,「あまり関心がない」があわせて78%であった。
平成5年の総務庁の「青少年のボランティア活動に関する調査」では,青少年の約33%がボランティア活動の経験を持っていた(「現在,している」約5%,「以前,したことがある」約28%)。ボランティア活動を「まったくしたことはない」と答えた青少年は約67%であり,このうち「今後とも活動する気がない」と回答した青少年は約20%であった。
以上の2つの調査から,日本の青少年のボランティア活動への参加が進んでいないこと,さらに,ボランティア活動への関心も高まっていないということが推測できる。
青少年のボランティア活動体験等の体験活動を推進させることは,国の政策課題の一つとなっており,学校や地域社会においてもますます重要視される中,青少年教育施設がこれまでの実績等から,その推進の中心的機関の一つとして期待されている。
(2)青少年教育施設のボランティア関係事業の現状
青少年教育施設のボランティア活動を推進するための事業は,大きく二つに大別できる。一つは,「ボランティア養成事業」の実施であり,もう一つは,ボランティア活動の機会の提供として施設に「ボランティアを受け入れ」ることである。
平成9年の「青少年教育施設ボランティア研究会」の調査によれば,ボランティア養成事業は約50%,ボランティアの受け入れは約60%の施設で実施している。ボランティア養成事業は,青少年教育施設でのボランティアを養成するための事業とボランティア入門的な事業とがある。前者は,主として高校生や大学生が青少年教育施設でのボランティア活動をするため,野外活動やレクリエーションなどの知識・技能を身に付けるための研修事業で,いわゆる「施設」ボランティアの養成事業といわれているものである。後者は,青少年にボランティアの意義を理解させたり,ボランティア活動体験をさせたり,青少年教育施設にとどまらないボランティア活動への動機付け等をする事業で,「ボランティア学習」の色彩の強い事業である。
ボランティア活動機会の提供としては,青少年教育施設は,ボランティア養成事業の修了者等を施設のボランティアとして受け入れている。その中には,登録制にしているところもある。活動内容としては,主催事業の補助スタッフとしての活動が最も多く,受入れ事業に関する指導補助,施設HP等の作成支援などの広報や情報関係の業務支援,施設の環境整備や施設の点検・補修等の活動をしている。(藤原 一成)
3 ボランティア養成
(1)青少年教育施設のボランティア養成事業の役割
青少年教育施設のボランティア養成事業は,青少年にボランティア活動の魅力を伝え,ボランティア活動の世界への橋渡しをするという大切な役割がある。
前述のとおり,ボランティア活動をしている,または,したことがある青少年は少数にとどまっている。しかし,きっかけさえあればボランティア活動をしてみたいと考えている青少年が多くいることも事実である(平成5年の総務庁の調査では,約7割)。踏み出せないでいる青少年の背中をそっと押して,ボランティアの世界へ誘うのがボランティア養成事業の大きな役割の一つである。
また,青少年以外の人々が青少年教育や青少年教育施設に関わるボランティア活動を通じて,生涯学習を実践するきっかけをつくる事業としての役割もある。
一方,養成事業には,様々な年齢・職業・地域の人々が青少年教育施設に集まるため,施設側にとっては,施設運営の協力者,助言者,理解者を得るきっかけともなるものでもある。
(2)ボランティア養成事業の留意点と課題
@ 企画担当職員のボランティア理解
青少年をボランティアの世界へ誘う事業を企画する職員には,当然のこととして,ボランティアに関する基本的な知識が必要となる。自己研修も含め研修等で理解を深めるとともに,地域のボランティア団体とも積極的に交流を図り,自らがボランティアマインドをはぐくむことも大切である。
A 養成事業のねらいの明確化
他の主催事業と同じように,何のための事業なのかを具体的かつ明確にして,参加対象を絞り込み,プログラムをねらいに沿って焦点化して作成することが大切である。ねらいをあいまいにして募集し,参加者をがっかりさせることがある。これでは,ボランティアへの扉を閉ざしてしまうことになりかねない。
B 養成事業の体系化とネットワーク化
養成事業は入門的な内容のものが多い。修了者は施設等でボランティアとして活動するが,その過程で様々なことを学び,より向上したいという意欲を持つようになる。このような意欲に応えるため,フォローアップやステップアップの研修を行うとともに,他の主催事業とボランティア養成事業とを関連付けながら,ボランティア養成を体系化することが大切である。
C 広報の充実
ボランティアに誘う事業であればこそ,青少年の心に飛び込む,青少年のボランティアマインドをつかむような広報が求められる。現在,広報媒体としてはインターネットが最も効果的であると考えられ,青少年教育施設でも独自のHPを持つようになってきた。HPなどで施設側が発信するメッセージを青少年と一緒に作り上げていくなどの工夫が必要である。
D 養成事業のネットワーク化
ボランティアの養成事業は,地域において,ボランティア団体,社会福祉団体等さまざまな団体が実施している。このような団体等と養成事業のネットワーク化を図り,互換性を高めることが大切である。(藤原 一成)
4 ボランティア活動機会の提供
青少年教育施設のボランティア活動には,ボランティア養成事業を行う役割とともに,自らボランティアを受け入れ,ボランティア活動の機会を提供する役割を併せ持つという特色がある。
今後,青少年教育施設の指導系の職員には,ボランティアを受け入れる施設のコーディネーターとしての役割が期待される。コーディネーターは,前述の中教審答申において,ボランティア活動を推進する上で重要な存在であると指摘されている。
青少年教育施設のボランティアコーディネーターには,次のような役割が期待される。
@ ボランティアのインタープリターとしての役割
青少年にボランティア活動の魅力を伝え,ボランティア活動の世界への橋渡しをする役割がまずある。
そのためには,ボランティア活動の本質的な意味(理念)を理解していることが必要であり,「ボランティア活動って何?」ということを自分の言葉で語れることが大切である。
A ボランティアの「おもい」を「力」に変える役割
ボランティアの「おもい」を「機能する力」に変えていく役割で,ボランティアの「おもい」をきちんと受けとめ,そのおもいを生かせる適切な活動や場所につなぐことが大切である。そのためには,ボランティアとのコミュニケーションを深めていくことが必要である。
B 施設とボランティアをつなぐ役割
施設がボランティアにどのような働きを期待しているかを把握し,その業務にボランティアが関われるかどうかをアセスメントし,関われると判断すれば,ボランティアが関われる形でプログラムを作成するという役割がある。
施設でのボランティアの活動内容は,補助的な業務が一般的だが,最近はボランティアに事業の企画・運営を任せるような事業が見受けられるようになってきている。
C ボランティアやボランティア活動の擁護者としての役割
昨今,ボランティア活動についての理解は進んだが,それでもまだボランティアを安上がりの労働力だと考える風潮がある。このような中で,コーディネーターには,ボランティアを守るとともに,ボランティア活動の本質的な意味を伝えていく役割(アドボカシー機能)がある。
そのためには,例えば,職員全員がボランティアについての理解を深めるための施設内研修を実施することや,ボランティアの安全管理のために,ボランティアのすべき業務とその責任の範囲を明確にするとともに,傷害保険や損害賠償保険への加入を勧めていくなどの役割が考えられる。
D ネットワーカーとしての役割
ボランティアとボランティアをつないで組織化することや,地域のボランティア関係団体とネットワークを構築して,養成事業を修了した参加者に,希望に応じて青少年教育施設以外のボランティアを紹介するなどして,ボランティアと地域社会をつなぐ役割が考えられる。また,大学等と連携して,青少年教育施設でのボランティア活動の単位認定を進めることも大切である。これは,大学生の参加のインセンティブともなる。(藤原 一成)
参考文献
1. 「青少年の奉仕活動・体験活動の推進方策等について」中央教育審議会答申,
2002(平成14)年7月
2. 「青少年教育施設ボランティア養成プログラム開発に関する調査研究」青少年教育施設ボランティア研究会,1998(平成10)年
3. 「青少年教育施設におけるボランティアの養成と活動について」国立オリンピック記念青少年総合センター,1994(平成6)年
| 《参考》 ボランティア関係をめぐる近年の動向 平成 7年 阪神・淡路大震災で多数のボランティアが活躍 10年 特定非営利活動促進法(NPO法)成立 12年 教育改革国民会議報告で奉仕活動の義務化提言 13年 ボランティア国際年 学校教育法・社会教育法改正 *地方公共団体や学校などにおいてボランティア活動等社会奉仕体験活動など体験活動の促進に努めることが義務づけられた。 14年 中央教育審議会「青少年の奉仕活動・体験活動の進方策等について」答申 15年 特定非営利活動法人(NPO法人)が1万団体突破 |